スイーツの文化史:ドイツのクリスマスのお菓子

文化史学科研究室です。


街中はクリスマス一色ですね。

大学内もクリスマスの装飾が施され、清泉カフェでも クリスマスにちなんだお菓子の販売が始まりました。

清泉カフェに並んだシュトレン風シフォンケーキ

クリスマスとお菓子。一番に思いつくのは真っ白い生クリームと真っ赤な苺が乗ったショートケーキではないでしょうか。でも、今日はショートケーキではなく、先日カフェに並んだ「シュトレン」からスイーツの文化史を考えてみたいと思います。

「シュトレン」と言えば、ドイツ!

ドイツと言えば、木川弘美先生(西洋美術史)!

ということで…


先生!清泉カフェにシュトレン風シフォンケーキが売っていました!
シュトレンについて、ドイツのクリスマスのスイーツについて教えてください!
(ちなみに、日本で買えるおススメのシュトレンも教えてください!)



ドイツのクリスマスのお菓子

12月に入ると、ドイツでは様々なところにクリスマスマーケットが開かれます。ライトアップされたクリスマスマーケットは、見て歩くだけでも楽しくなります。日本でも最近はドイツのクリスマスマーケットを模したイベントがあちこちでおこなわれているようですね。本場のマーケットでは、クリスマスを祝う飾りだけでなく、食べ物もたくさん売られます。今日はその中でもクリスマスにまつわるお菓子について、ご紹介したいと思います。


クリスマスの定番、シュトレン

ドイツのお菓子はもともとフランスのものとは異なり、地味なイメージのものが多く、あまり日本では馴染みがなかったのですが、近年この時期になるとシュトレンが店頭に並ぶようになりました。シュトレンとは、イースト種の生地にドライフルーツやスパイスをたくさん入れて焼き上げた、クリスマスには欠かせないお菓子です。ずっしりと重いケーキで、1センチぐらいに薄く切って楽しみます。たっぷりまぶされた砂糖がシャリシャリとした食感で、しっとりとした生地と相まって、やみつきになってしまう味わいです。日持ちがするので、クリスマスを心待ちにしながら、少しずつ食べるのです。

日本では「シュトーレン」と呼ぶことが多いようですが、ドイツ語圏の人たちにとってはちょっと首をかしげる表記のようです。ドイツ語ではStollenと書くのですが、この「o」は後ろに子音の「l」が2つ重なっているので、長く伸ばして発音することはありません。この記事を読んだみなさんは、ちゃんと「シュトレン」と呼んでくださいね。


 シュトレンの歴史 シュトレンが初めて歴史に登場したのは1329年です。ナウムブルク(現ザクセン地方)の司教にあてた「クリスマスの贈り物」がシュトレンでした。1329年、司教ハインリッヒは製パン職人のギルドを作ることを許可しました。パン職人たちはその特権に感謝し、クリスマスの贈り物としてシュトレンを2本献上したという記録が残っています。
当時のシュトレンは現在のシュトレンとは全く異なり、水、オーツ麦、菜種油だけで作られたとても素朴なものでした。というのも、アドヴェントの期間は肉、卵、バターや牛乳など乳製品の摂取が禁止されていたためです。
シュトレンの本場とされているドレスデンで見つかった最古の記録は1474年に聖バルトロマイ病院が受け取った請求書に記されたものになります。請求書には「クリストブロート2本、7グロッシェン、クリスマスに貧しい人々に配るため Item 7 gr vor zcwey Christbrot den armen luten uff wynachten.」と記されていました。
このあまり美味しいとは言えないシュトレンは貴族の間では不人気でした。そんな中、ザクセン選帝侯エルンストと弟アルブレヒト3世(勇敢公)がローマ教皇へ「バター・牛乳接種禁止令」の撤廃を求め、手紙を書きました。その結果、1491年教皇インノケンティウス8世がバターの使用を認めた「バター書簡Butterbrief」を発行し、ザクセン選帝侯の家族、宮廷の使用人、兵士にのみバターの使用を許可しました。「君主の周りだけ」という条件付きの「バター書簡」は、次第に公国全体に広がり、公国内でのシュトレン作りにバターが使われることになりました。
そして、現在のシュトレンのようにドライフルーツやアーモンドなど入ったものがいつ誕生したのかはわかっていません。ハインリッヒ・ドラスドという宮廷のパン職人が、ドライフルーツやアーモンドなどを加える方法を思いついたと言われていますが、噂どまりのようです。
19世紀に入り、砂糖の工業生産が始まったころからシュトレンの表面に粉砂糖が降られるようになりました。こうして、シュトレンは「シンプルな材料で作られたそっけない味のパン」から、「華やかなお祝いのお菓子」へと変貌、今日に伝わるシュトレンとなりました。



出典:
シュトレン編集委員会『シュトレン―ドイツ生まれの発酵菓子、その背景と技術―』(旭屋出版、2018年)
https://wissensforum-backwaren.de/app/uploads/2020/11/03-2020_backwaren-aktuell_web.pdf(アクセス日:2023.12.8)


クリスマスマーケットに欠かせないグリューワイン 

冬は寒いドイツで、マーケットを歩いて冷えた体にはグリューワインが欠かせません。赤ワインに砂糖やシナモン、クローブなどのスパイス、林檎やオレンジといった果物を入れて、アルコールが飛ばないように弱火で温めます。日本では瓶詰めになっているものも販売されているようですが、安い赤ワインを使って自分で作っても美味しいものです。

冬の定番の飲み物であるグリューワインは、クリスマスマーケットではオリジナルのマグカップで提供されることがあります。グリューワインを購入する際にデポジットの代金が取られ、飲み終わってカップを返却すれば返金されるのですが、記念に持ち帰ることも可能です。場所や年ごとにデザインが異なるので、コレクションしたくなってしまいます。うちにも2〜3個あるなあ・・・。

木川先生が購入されたグリューワインのカップ

冬の間は駅や街角のキオスクでもグリューワインが売られます。さらに温まりたいときはラム酒などの強いお酒を追加することも可能です。甘い香りが漂う中、仕事を終えた厳ついオジさんたちが、ニコニコしながらグリューワインを飲む姿が街のあちこちで見られます。この時期ばかりは、ビールよりもグリューワイン!なのかもしれませんね。




皆さん

素敵なクリスマスをお過ごしください!








アドヴェント―待降節―
キリストの第一の到来である主の降誕の祭日(12月25日)への準備期間であるとともに、終末における第二の到来(再臨)への待望にも心を向ける期間。典礼暦年の1年を開始する期間で、主の降誕の祭日の四つ前の主日にあたる待降節第1主日の前晩の祈りから始まり、主の降誕の祭日の前晩の祈りの前まで続きます。

待降節の習俗
アドヴェント・クランツ
11月11日の聖マルティヌスの記念日の晩に人々が提灯や松明を手に行進する行列、樅(もみ)の小枝で編んだ環(クランツ)に主日ごとに1本ずつ蝋燭を灯していく。

アドヴェント・カレンダー
1日ごとに番号のついた小さな扉を開けていくと、中に絵が描かれている。
現代では中にお菓子が入っているものも販売されている。



ミュンヘンのクリスマスマーケット


撮影:木川先生



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