『文化史をあるく』と『文化史のなかのことばたち』

文化史学科研究室です。

2020年度、文化史学科では二冊の「教科書」を作成し、学生のみなさんに配布いたしました。
『文化史をあるく』
文化史のなかのことばたち』
この二冊は文化史学科の先生方が作成された、世界にただ一つの教科書です!
先生方が作成された教科書

学生の皆さんのお手元にはすでに届いていると思います。
ページをめくってみましたでしょうか?

文化史学科の先生方の専門分野について触れることができたと思います。
こうして見てみると、文化史学科って地域も時代も分野も、本当に幅広く学べる学科なんだな・・・と改めて感じました。
学生時代、もう少し勉強しておけばよかったと少し後悔しています。

***

さて、そんな教科書を作成してくださいました先生方に教科書に込めた想いを伺ってみました!


教科書誕生秘話

教科書を開いてみました!

聞き手:まず、教科書2冊を作成されることになった背景・経緯について教えてください。

井上先生:清泉女子大学の文化史学科では、多様なアプローチで歴史を学ぶことができることは学生のみなさんもご存知かと思います。4つの専門分野として歴史、美術史、思想史、宗教史があり、地域は日本・東洋・西洋の3つに大別されています。このように、諸地域の歴史について多様なアプローチで迫ることのできる学科はそうそう多くないと自負しています。学生のみなさんに、こうした本学科の魅力をもっとわかりやすく伝えたい、どういう教員がいて、どういうアプローチで歴史を学ぶことができるのか伝えたいと強く思ったことが一番のきっかけです。

聞き手:そうお感じになる何か直接的な出来事はあったのですか?

井上先生:はい、そのように思ったのは、卒業論文を執筆する4年次の学生さんと何気ない会話をしていたときでした。研究法演習(卒業論文のためのゼミ)で、その学生さんは入学してからそれまでの学びを振り返って語っていました。私も感慨深く耳を傾けていたところ、ふと「(同じ文化史の先生ではあるけれど)○○先生の専門分野というかアプローチについて(説明してと言われても)説明できる自信がない」とその学生さんが漏らしました。「あれ?でも12年次のときに(その先生の)授業を受けていたよね?」と尋ねてみますと、課題を仕上げるのに追われてしまっていたのかもしれないと述懐していました。

聞き手:それは確かにそうですね。どうしても単位を取ることが第一になってしまうので・・・。

井上先生:このときの会話がずっと気にかかっていました。学生さんが宗教史のゼミで卒論を執筆したいと志望してくれるのは嬉しいことですが(私は宗教史を専門としています)、その他のアプローチ(たとえば歴史学をはじめ、思想史や美術史など)にも親しんでほしいと思い、授業でもほかの先生の研究分野について触れてきたつもりでした。でも、やはりそれでは足りないのかもしれないと思うようになりました。

聞き手:なるほど。せっかく文化史学科に4年もいるのに、受け身の姿勢でいると、ほかの専門や先生を知る機会がないまま卒業を迎えてしまうということですね。

井上先生:はい、そうです。もうひとつのきっかけは、文化史学科で定期的に行われている教員会議の場で感じたことにあります。ふだんは自分の担当する授業を履修している学生さんのことしかわからないのですが、この会議では、ほかの先生方の授業を履修している学生さんについて様子を聞くことができます。同時に、教員たちが学生さんたちにどのようなことを伝えたいと思っているのかも知ることができます。そうした教員たちの思いは、授業や個人面談を通して学生さんに伝えられていると思いますが、それらだけでは伝えきれていないことがあるかもしれないと思うようになりました。

聞き手:確かに、どんな素晴らしい言葉でも口頭だと学生はしばらくすると忘れてしまいます・・・。文字に残る言葉が必要かもしれませんね。

井上先生:そうですね。大学案内のパンフレットには、文化史学科でどういう学びができるのか、簡潔に記されています。ですが、在学中の学生さんに向けてもこの大事なことを伝えたいと思いました。文化史ではどのような学びができるのか?どのような教員がいるのか?そして文化史の教員たちが清泉の学生さんたちにどういうことを伝えたいと思っているのか?こういうことが一冊にまとまっていて、一読してわかるような冊子が必要だと思うようになりました。

聞き手:なるほど、そんな深い意図が込められていたのですね。

井上先生:ただ、冊子を作成するとなると、時間だけでなくお金も必要です。以前勤めていた研究所の所長が「InDesignというDTPソフト(組版ソフト)を使いこなすことができれば、印刷代だけで済むよ」と話していことを思い出したのですが、私にはそのソフトを使いこなすことはできません・・・。もしできたとしても、印刷代をどう工面するかと思案していたところ、教育に関わるプロジェクトを支援する学内の公募プログラムの話を耳にしました。「教育・研究充実のための学長裁量予算」というプログラムです。申請して採択されれば、冊子を作成する費用を捻出することができます。そこで学科の先生方に相談したところ、坂田先生が「本の表紙や本文のレイアウト(組版)は経験があります。やってみましょう!」と仰ってくださいました。その後、文化史学科の申請は無事に採択されました。それ以降の作業の経過については、文化史学会のみなさんが制作した『創』(54号)の「主任の言葉」で狐塚先生が書いてくださっていますので、読んでみてください。

聞き手:はい、ぜひ読んでみたいと思います。

 

なぜ「あるく」と「ことば」だったのか

聞き手:次に「あるく」と「ことば」がテーマに選ばれた理由について教えてください。

井上先生:『文化史をあるく』は、「文化史学科における『アクティブ・ラーニング』とは何か?」という問いと関係があります。「アクティブ・ラーニング」という用語をみなさんも聞いたことがおありでしょう。「(学生の)能動的・主体的な学び」と訳されたりします。この用語が世に流布される以前から、文化史学科では教員たちがそのような学びを支援してきたと(私は)自負しています。ただ、文化史学科の「アクティブ・ラーニング」のありかたは、あまりよく理解されていないようだとも感じてきました。教員たちで「文化史学科のアクティブ・ラーニングとはどのようなものか?」について話しあう必要があると考えました。

聞き手:「アクティブ・ラーニング」という言葉は最近よく聞きますが、確かに中身はどういうものかと尋ねられると、漠然としていていまいちよくわかりませんね。

井上先生:そうなのです。しかもこれを学科でまとめようと思うと相応の時間や労力もかかります。そこでまず一冊目では、教員が研究のうえでゆかりのある国内外の都市をそれぞれひとつずつ選び、その都市について何を学んでほしいか、その都市を訪れるとどういう発見があるか紹介しようということになりました。もちろん、「アクティブ・ラーニング」は学外での活動のみを指すのではありません。本を読むことで、能動的・主体的な学びが触発されることもあります。文化史学科の学生さんには本好きが多いですが、本を読むと同時に、実際にその地に足を運ぶということも大事にしてほしいという願いが込められています。寺山修司さんの作品に『書を捨てよ、町へ出よう』というものがありますが、「書を携えて、町へ出よう」といった意味も込めたいと思いました。

聞き手:「読む」だけではなく、そこに「あるく」を組み合わせるということですね。文化史学科での「知の探究」はまさにそうあるべきかもしれません。コロナ禍で旅行の機会が奪われてしまい、旅への情熱が失われている今だからこそ!ですね。文化史学科には「夏期研修旅行(文化史学特別演習)」という定番の「あるく」学びもあります。再開が待ち望まれますね。

井上先生:もう一冊の『文化史のなかのことばたち』は、2021年度から導入される新カリキュラムと深く関わりがあります。文化史学科の学生さんたちのなかには、英語が得意な人もいますが、英語が苦手という人も少なくないようです。もちろん、英語が得意であると、いまの世の中でいろいろな利点があります。ただ、英語から見える世界と、それ以外の言語から見える世界は異なります。それは日本語で生活しているみなさん自身、そう思うでしょう。日本語には英語にはないさまざまな豊かな表現があります(日本語のほうが優れているという意味ではありません)。そして、いまの日本語には無いけれど、100年前、200年前、1000年前に使われていた日本語に豊かな表現を見出すこともあります。それと同様に、ギリシャ語にはギリシャ語の、ラテン語にはラテン語の、フランス語にはフランス語の、ドイツ語にはドイツ語の、ロシア語にはロシア語の世界が広がっています。文化史学科で学ぶみなさんには、そのような世界の多元的なありようを知ってもらいたい、そう思って新カリキュラムではさまざまな言語に触れる機会を作りました。そこで用いることのできる「教科書」として『文化史のなかのことばたち』が企画されました。

聞き手:英語以外の外国語が2021年度入学者から必修になったことと連動した企画だったのですね。言語と向き合う姿勢や楽しさを教えてくれる最高の「手引き」になるかもしれませんね。

 

私の大変さなんて・・・

聞き手:今回、同時に2冊を刊行したわけですが、さぞかしご苦労があったのではないですか?作成にあたり大変だった点がございましたら教えてください。

井上先生:先生方は春休み返上で、2冊の「教科書」の原稿を執筆されました。そして表紙をデザインされた木川先生、さらには、全教員の原稿をもとに本文のレイアウトをされた坂田先生はさらに大変でいらっしゃいました。そのような状況に追い込んだのは企画者の自分ですので・・・私の大変さなんて・・・。

聞き手:井上先生らしい低姿勢の謙虚な姿勢なこと(笑)。井上先生なくしてこの企画は生まれませんでしたし、面倒な事務作業も全部ひとりでこなされ、本当に頭が下がる思いです。では、そこら辺の具体的な苦労話については坂田先生にしていただきましょう。

坂田先生:はい。紙面レイアウトや、細かな校正の作業が大変でした。レイアウトについては『文化史をあるく』は4ページ、『文化史のなかのことばたち』は2ページ(あるいは3ページ)で読みやすく収まるよう、微妙に行間を変えたり、写真のサイズを調整したりするなどいろいろなことをしました。また『あるく』の方の目次については、製本した際のノド(折り目)がどのように反映されるか、ハラハラしながら調整しました。ほかにも、普段はあまり意識してこなかったキャプションの文字サイズや文字と写真との距離等、作成する側として様々な学びがあったなと思います。

聞き手:レイアウトや装丁は、プロの業者に頼めばこのような苦労はなかったと思いますが、そこをあえて教員の「手作り」にこだわった点に今回の教科書の意義があります。情熱と愛情のこもった手作り冊子、もし捨ててしまったら坂田先生と井上先生の怨念が・・・。それにしても坂田先生の職人芸は見事でした。

 

学生のみなさんへ

聞き手:最後に、教科書を手にした学生さんたちへのメッセージをお願いいたします。

井上先生:ここは主任に譲ります。

聞き手:では教科書作成時の主任であった狐塚先生より一言お願いします。

狐塚先生:『文化史のなかのことばたち』『文化史をあるく』は、文化史学科教員11名からみなさんへの贈りものです。文化史学科は、通常の史学科とは異なり、歴史学を中心に美術史、哲学・思想史、宗教学宗教史という関連する分野を横断して、学びを深めていくことができます。多様な専門分野をもつ教員たちが、この学科で学びはじめるみなさんに、それぞれの専門分野からぜひお伝えしたいと思うことを、渾身の力とみなさんへのあつい思いをこめて書き下ろしたのが、この2冊の小さな本です。本文のレイアウトも表紙のデザインも全部、教員たちが行いました。学科の教員全員が学生のために本を手作りしたのは、学科が生まれて以来、初めての試みです。好きなほうからでかまいません。ページをぱらぱらとめくってみてください。目がとまったところから読みはじめ、文化史学科で学べるさまざまな学びについて思いを馳せてくださると嬉しいです。

聞き手:本日はありがとうございました。


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「文化史」に出会い、4年間の学びを通じて、皆さん自身の「とっておき」を見つけてくださいね!



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